下痢の原因は歯周病菌から
下痢の原因の一つに歯周病が挙げられています。歯周病は全身疾患にも影響を与え、お口の中だけにとどまらないということをご存じでしょうか?
この歯周病を引き起こす歯周病菌は、体内に入り込むことでさまざまな全身疾患を引き起こすことが明らかになっています。下痢もその一つです。
ではなぜ歯周病が下痢の原因となるのでしょうか?
歯周病とは
歯周病は、歯を支える歯肉やその周辺組織が炎症を起こし、悪化すると歯槽骨(しそうこつ)が溶け、歯を失うことにもなる病気です。歯周病は「もの言わぬ病」と呼ばれ、症状がかなり進行するまで自覚症状はないことが多く、放っておくと全身の病気にも影響する恐い病気です。
日本人にもっとも多い病気は歯周病で、45〜54歳の中年層の80%以上、25〜29歳でも70%以上で歯周病の兆候がみられるそうです。ですから、今や歯周病は日本人のおよそ8割が患っており、国民病とも言えるようです。
普通、病気は痛みがひどくなってから、病院へ治療に行くのではなく、重症化する前に病院にかかり治療してもらいます。しかし、歯周病の場合、かなり進行しなければ、ひどい痛みが発生しません。
その前に、歯ぐきの腫れ・出血、歯がぐらぐら、歯から口臭発生など、自覚症状はあるのですが、痛みを我慢できないほどではないので、つい放置してしまいがちになります。
このことが歯周病菌による病気の進行を、さらに深刻化させている大きな一つの理由です。
歯周病と全身疾患についての関連も指摘されており、自覚症状が乏しいため早期治療・予防が重要となっています。歯周病は潰瘍性大腸炎などの大腸で起こる病気に関係があります。
昔から、歯がない人に消化器系の病気になる人が多いと言われてきました。
単純に歯がないため、十分に食べ物を咀嚼できていないまま飲み込むため、消化する際、胃や腸に負担がかかるのも一つの要因だと言えます。しかし、それ以外にも理由があると近年の研究で明らかになってきたのです。
歯周病は歯周病菌の塊
これほど歯周病の人が多いのに、それがどんな病気なのかはあまり知られていないようです。これは歯周病の初期の段階では痛みがなく、歯肉(歯茎)がはれたり、歯磨きのときに出血する程度なので、そのまま放置している人が多いからです。
歯周病の原因となるのが、歯垢(プラーク)です。歯垢というと、食べカスのことだと思っている人が多いようですが、実は歯周病菌という細菌の塊なのです。その歯周病菌の種類は、以前は300種類と言われていましたが、今では、800種類を超えると言われています。
歯磨きが十分に行われずプラークが残っていると、その中にいる歯周病菌が増えて、歯肉に炎症が起きて腫れてくるのです。
歯と歯肉の隙間(歯周ポケット)で歯周病菌が繁殖を続けると、歯磨きではプラークを取り除けなくなり炎症も拡大します。この状態を放っておくと、歯がぐらつき、やがて抜け落ちてしまいます。
歯周病菌の中でも凶悪なジンジバリス菌は吸血鬼
歯周病菌には800種類ほどの様々な菌がいますが、その中の1つであるジンジバリス菌がいます。この菌は、一般細菌が糖をエネルギー源とするのに対して、タンパク質を分解してエネルギー源とします。 また血液を餌にする吸血鬼の様な凶悪な歯周病菌です。この菌は吸血鬼のように血液をエサにしています。そして吸血鬼は、日光が苦手なように酸素が苦手です。
腸バリア機能が低下し下痢の原因となる
ジンジバリス菌は糖やタンパクなどをエサに増えつづけ、やがて歯肉などの組織を破壊して炎症を起こします。
炎症で出血すると、その血液を栄養にしてさらに増殖します。そうすると、肉が腐る臭いってあるでしょう。あれと同じメタンや硫化水素を排出して、おクチの中でものすごい悪臭を放ちます。これが口臭の原因です。歯周病の症状がひどくなると歯が歯肉から抜け落ちてしまいます。
それだけならまだいいのですが、このジンジバリス菌腸に流れ込むと腸内細菌叢がバランスを崩して、腸のバリア機能が低下します。腸バリア機能が低下すると、本来入ってはいけない病原菌や未消化のタンパクが入り込みます。血中に細菌由来の毒素量が増加することもわかってきました。当然、腸のトラブルも発生します。
歯周病菌は、胃炎や胃潰瘍などといった症状を引き起こすピロリ菌に似た症状を引き起こすため、体内に入り込むことで消化器系に悪影響を与えて腹痛や嘔吐、下痢などを引き起こすことがあります。
歯周病菌の中で、ジンジバリス菌が最も凶悪な理由
ジンジバリス菌が最も凶悪な理由として次のような事がわかっています。
①タンパク分解酵素を持ち酸素がなくても生育
ジンジバリス菌は、糖ではなくタンパク質を分解してエネルギー源とします。歯周病菌が生息している歯周部位(歯と歯茎の境界)の歯肉や血を栄養源として分解します。
歯周部位は、歯周病菌が繁殖し、歯周ポケットが深くなると、ますます歯周ポケットの奥にジンジバリス菌は生息域を拡大します。この部位は、酸素がないのですが、ジンジバリス菌は、酸素がない環境で生きて繁殖します。
ジンジパイン菌は、歯肉組織を形作っている細胞や血管の細胞を徐々にバラバラにします。歯肉線維芽細胞や血管内皮細胞の接着性を失うと細胞死を誘導することが証明されています。
②定着に必要な線毛を持つ
歯周局所への定着に重要な線毛を菌体周辺にもっています。つまり、宿主の歯周局所に居座るのに都合のいい線毛なのです。これらの線毛と類似する線毛は腸内に生育するバクテロイデス属細菌にも多くみられます。
③ジンジバリス菌は鎧(よろい)のようにおおう殻がある
ジンジバリス菌は、宿主の免疫から逃れるために殻でおおわれています。殻のことを莢(きょう)膜と呼びます。
ジンジバリス菌を守るとともに、炎症反応を引き起こします。歯周組織に過剰な免疫反応、炎症反応を引き起こし、歯周組織を破壊します。
④ジンジバリス菌は他の歯周病菌を操る生態をもつ
ジンジバリス菌、外部からの唾液感染が原因です。幼児期に母親からの感染の可能性が増えますが、この時期の感染は歯ぐきにはあまり悪影響を及ぼしません。歯周病と一番関係するのは、20歳前後です。
この時期、異性との接触などで唾液感染の機会が増えるところに、悪性の菌種が感染するといわれています。
歯周病菌の種類は加齢にともない増加し、リスクに高低差があります。リスクの低い物を底辺としてピラミッドに、良く、たとえられます。成長段階で、底辺から徐々に危険度の高いものが構成されます。
⑤40歳以降の成人の多くが罹患
ジンジバリス菌は、40歳以降の成人の多くが罹患する慢性歯周炎の歯周局所から分離されることが多くあります。
タンネレラ・フォーサイシアやトレポネーマ・デンティコラという細菌とともに慢性歯周炎のレッド・コンプレックス(最重要歯周病原細菌)が多く見られます。
⑥病原因子は血中に侵入し、全身の臓器の病気と関係
ジンジバリス菌は歯茎の炎症部位から血液中に侵入します。ジンジバリス菌を含めた歯周病原細菌による慢性歯周炎は、他の臓器の疾患と密接な関係があるという研究結果が多数報告されています。
密接な関係ある疾患には、動脈硬化、虚血性脳血管疾患、関節リウマチ、早期低体重児出産、非アルコール性脂肪性肝疾患、アルツハイマー病などがあります。
下痢の原因となる歯周病の進行を早める理由は油断すること
歯周病菌が、いかに凶悪なのかをいくら説明して、理解してもらえたとしても、予防策を実行しなければ、何の意味もありません。理解していないのと一緒です。最初の頃は自覚症状がないのでついつい油断して、予防策を実行しないのです。
なぜ、こんなことになるかというと、たいていの人は痛みを感じて切羽詰まらないと行動を起こさないからです。歯の病気は、サイレント・キラー・ディジーズと呼ばれ、相当進行しないと痛みを感じることはありません。痛みを感じた時には、治療を開始しても、元に戻すのは不可能な段階まで、進んでいます。
歯周疾患の自覚症状とセルフチェック
歯周病の自覚症状についてのセルフチェックしてみましょう。自覚症状を感じたら、まずは歯医者に行ってみましょう。
□朝起きたときに、口の中がネバネバする。
□歯みがきのときに出血する。
□硬いものが噛みにくい。
□口臭が気になる。
□歯肉がときどき腫れる。
□歯肉が下がって、歯と歯の間にすきまができてきた。
□歯がグラグラする。
□歯肉が腫れ、うずくことがある
□歯肉が赤黒くなり、硬いものが噛みにくい
歯周病菌以外の口腔内の菌で下痢になる
2017年に慶應義塾大学の研究チームがまとめた報告によると、歯周病菌以外にも存在する口腔内の「クラブシエラ・ニューモニエ」という常在菌が腸内に定着、増殖することで炎症を引き起こすことがわかりました。この炎症は、クローン病という難病指定の腸疾患患者に多くみられる病態だそうです。
クローン病の原因は未だに解明できていませんが、おもに若年者にみられ、腹痛や下痢、血便、体重減少などの症状があります。
クラブシエラ・ニューモニエは肺炎などの原因菌ともなりますが、口の中ではさほど強い毒素ではく病原性は高くないのです。しかし、腸にたどりついてしまうとたちまち危険性が高くなるのです。
クラブシエラ・ニューモニエを含む多くの菌は一般的に胃酸で死んでしまいますが、胃酸が少なかったり、食片にまぎれて腸まで到達すると増殖する恐れがあるのです。
健康な人の腸にはたとえ菌が紛れ込んだとしても定着することを防ぐ自己防御システムがありますが、病気で抗生物質を服用している人は腸内環境が悪くなっており防御システムがうまく機能しないことがあります。
防御システムがうまく機能しないと、口から入ったものは消化管を通って、腸までやってきた有害物質を栄養素と一緒に吸収してしまい、血液に乗って全身をめぐり、体のあちこちでトラブルを起こします。それを防ぐのが腸管バリア機能です。
この腸管バリアが悪くなると、歯周病菌やクラブシエラ・ニューモニエ菌が悪さをして健康を損ねてしまいます。あまり関係はないと思われがちな口と腸が、実は大きく関係しているのです。
こうした口腔菌は下痢になるだけならまだいい方ですが、腸の病気以外にも肥満や糖尿病の関連に見られる状態と共通する部分も多いと言われています。もはやお口の中の問題だけではなく、やがて全身の病気を引き起こす原因となります。
全身の健康に関与する可能性が高いとして、ますます腸内環境と同様に口腔環境も注目され始めています。
朝起きてすぐに歯磨きすると下痢が改善した
普通、歯磨きは朝と夜にしますが、長年下痢に悩まされていた人が「朝一番に歯磨きをする方がいいよ」ということ知ってから、朝一番の歯磨きをかなり入念に行うようにしたそうです。
これまでも歯間ブラシにデンタルフロス、電動歯ブラシに先細歯ブラシと、時間をかけて来たつもりだったのですが、歯磨きをいつやるかがこれほど大切だとはつい最近までしらなかったのですが、朝一番の歯磨きを実行してから、下痢をする頻度が大幅に減ったそうです。
直接的な因果関係はわかりませんが、歯磨きの改善と期を同じくして体調が良くなってきたことからすると、個人的にはこのことが効いているような気がしてなりません、と言われています。
朝は起き抜けにすぐ歯磨きをすべき理由
その理由は、寝ている間に口腔内の細菌が増殖しているため、朝一番に歯を磨いて口の中を清潔にしなければ細菌を飲みこんでいるのと同じことになるということです。
最近、歯周病は腸内バリア低下、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病などの全身疾患の原因になっているということが分かってきて、虫歯の治療だけではなく歯周病の治療、普段からの口腔内の清潔の管理の不全が、全身の病気の源ということも分かってきたのです。
腸内環境を強化しよう
日々の正しい口腔環境ケアが、腸内環境改善につながります。口の中は、腸内と同じで善玉菌、悪玉菌、日和見菌といわれる3種類の菌が、およそ800種類ほど共生しています。
腸内では細菌の群生を「腸内フローラ」といいますが、口腔内も同様に「口腔フローラ」といいます。
口腔内の環境を整え、歯周病菌が腸へ流入することを防ぐことは、腸バリアが低下しませんので、腸内環境の健康維持や改善には外せない要素のひとつとなります。
人は生活していると調子の悪い時もあり、良い時もあります。悪い時にはすぐに回復できる力を備えておくことが重要となります。それには腸内環境をしっかりと整えておくことが必要なのです。腸内環境を整えるサプリメントがありますので上手に利用しましょう。