執筆・監修:箕浦雅子(薬剤師)|株式会社健将 代表取締役
「鍋を食べると、途中からお腹がゴロゴロしてくる」
「食べ終わってすぐトイレに行きたくなる」
「温かい鍋なのに、どうして下痢になるの?」
そんな経験がある方もいるでしょう。
結論からいうと、鍋そのものが下痢を起こすとは限りません。
鍋料理は、
- 一度にたくさん食べやすい
- 脂の多い肉やスープを使うことがある
- 玉ねぎ、にんにく、きのこなど複数の具材を一緒に食べる
- 辛い味付けにすることがある
- お酒と一緒に食べることがある
など、食後のお腹の動きに影響する条件がいくつも重なりやすい料理です。
また、「食べてすぐ便意が起こる」場合は、今食べた鍋が数分で大腸まで通過したわけではありません。
食事をきっかけに大腸の動きが活発になる胃結腸反射が関係していることがあります。[1][2]
一方、食べてから時間がたって下痢や腹痛が起こった場合は、食中毒など別の原因も考える必要があります。
この記事では、鍋を食べたあとに下痢やお腹のゴロゴロが起こる理由を、「食後すぐ」と「時間がたってから」に分けて整理します。
鍋を食べて「すぐ」お腹がゴロゴロするのはなぜ?
鍋を食べ始めて間もなく、
- お腹が鳴る
- 急に便意がくる
- 食事中なのにトイレに行きたくなる
ということがあります。
このとき、
「さっき食べた鍋が、そのまますぐ便になった」
というわけではありません。
胃結腸反射とは?
食べ物が胃に入ると、その刺激をきっかけに大腸の運動が活発になる生理的な反応があります。
これを胃結腸反射と呼びます。
Snapeらの研究では、標準的な食事でも、脂質だけの試験食でも、直腸S状結腸の活動が速やかに増えることが確認されています。[1]
また、Wileyらが16人の健常者を対象に行った研究では、胃に入れたバルーンを100mL、200mL、300mLの水で段階的に膨らませると、胃の拡張量に応じて直腸S状結腸の運動が増加しました。[2]
これは食事そのものを使った試験ではありませんが、十二指腸に脂質を入れたときにも運動が増え、ブドウ糖やアミノ酸では同じ増加はみられませんでした。[2]
つまり、食べ物が胃に入り、胃が広がること自体が、大腸を動かすきっかけになります。
そのため、食後すぐに出る便は、今食べた鍋そのものではなく、すでに大腸にあった内容物が押し出されていると考えられます。
胃結腸反射は正常な体の仕組みですが、強さには個人差があります。

① 鍋は一度に食べる量が多くなりやすい
鍋料理は、白菜、長ねぎ、きのこ、豆腐、肉、魚介類、締めの麺やご飯など、さまざまな食材を少しずつ食べられるのが魅力です。
一方で、
「少しずつ食べていたつもりが、結果的にかなりの量を食べていた」
ということも起こります。
Wileyらの研究では、胃の拡張が大きくなるほど直腸S状結腸の運動が増えることが確認されています。[2]
そのため、鍋を食べるとすぐお腹がゴロゴロしやすい方は、
- 一度にたくさん食べていないか
- 早食いになっていないか
- 満腹なのに締めまで食べていないか
を振り返ってみましょう。
② 脂の多い肉やスープが関係することも
鍋の種類によっては、
- 豚バラ肉
- 牛肉
- ホルモン
- 鶏皮
- 脂の多いスープ
などを多く摂ることがあります。
Snapeらの研究では、脂質だけの試験食でも、食後に直腸S状結腸の活動が増えることが確認されています。[1]
また、Wileyらの研究でも、十二指腸へ脂質を入れたときに直腸S状結腸の運動が増加しました。[2]
さらにNIDDKでは、すでに急性の下痢があるとき、脂肪の多い食品が症状を悪化させる可能性があるとしています。[4]
そのため、
「野菜中心の鍋では大丈夫なのに、もつ鍋や豚バラの鍋ではお腹がゆるくなる」
という場合は、食べた脂の量との関係を確認してみる価値があります。
ただし、脂を食べた人全員が下痢になるわけではありません。
鍋だけを原因と決めつけず、量や具材、一緒に食べたものまで見ていくことが大切です。
脂質と食後の便意については、こちらの記事でも解説しています。
③ 玉ねぎ・にんにく・きのこ・キャベツなどの具材が関係することも
鍋には多くの野菜やきのこ類が入ります。
野菜やきのこを食べること自体が悪いわけではありません。
ただし、過敏性腸症候群(IBS)のある人では、医師などから低FODMAP食を勧められる場合があります。
FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい糖質の総称です。
NIDDKでは、低FODMAP食で制限を検討する食品の例として、
- 玉ねぎ
- にんにく
- きのこ
- キャベツ
- 一部の豆類
- 小麦製品
などを挙げています。[5]
これらは鍋料理に使われることも多い食品です。
ただし、
「玉ねぎやきのこを食べると誰でも下痢になる」
という意味ではありません。
低FODMAP食は、医師から勧められた場合などに数週間試し、その後、食品を少しずつ戻しながら症状との関係を確認していく方法です。[5]
必要な場合は、自己判断で多くの食品を長期間除くのではなく、医師や管理栄養士に相談しながら進めるとよいでしょう。
また、「舞茸を食べたときに特にお腹がゆるくなる」という場合は、こちらも参考になります。
④ 辛い鍋やアルコールも確認
キムチ鍋、火鍋、担々鍋など、辛い鍋を好む方もいるでしょう。
また、鍋と一緒にビールや日本酒などを飲むこともあります。
NIDDKでは、すでに急性の下痢があるときに避けた方がよいものとして、
- アルコール
- カフェイン
- 大量の単純糖
- 糖アルコール
- 脂肪の多い食品
などを挙げています。[4]
そのため、鍋を食べたあとに下痢になった場合は、
- 脂の多い鍋だったか
- アルコールを一緒に飲んでいたか
- 甘い飲み物やデザートも多く摂っていなかったか
なども確認してみましょう。
辛味については、体調や個人差によって症状が出ることもあります。
ただし、本記事で参照した研究の範囲では、「辛い鍋が胃結腸反射を強める」とまでは断定できません。
毎回辛い鍋のときだけ症状が出る場合は、食べた量や辛さを記録して、自分の症状との関係を確認してみましょう。
「熱い鍋だから下痢になる」とは言い切れない
ネット上では、
「冷えた体に熱い鍋を入れると、内臓が驚く」
「温度差によって自律神経が疲れて下痢になる」
といった説明を見かけることがあります。
しかし、本記事で参照した資料の範囲では、「冷えた体で熱い鍋を食べること自体が下痢を起こす」という仕組みは確認できません。
鍋を食べたあとすぐにお腹が動く場合は、
- 胃結腸反射
- 食べた量
- 脂の量
- アルコール
- 特定の具材
などを一つずつ確認する方が、原因を考える手がかりになります。[1][2][4][5]
「鍋の素の食品添加物」が下痢の原因なの?
鍋用スープには、商品によってさまざまな原材料や食品添加物が使用されています。
ネット上では、
「食品添加物が異物なので、体が下痢で排出しようとする」
といった説明を見かけることがあります。
しかし、本記事で参照した資料の範囲では、そのような仕組みは確認できません。
また、
「無添加の鍋の素なら下痢にならない」
と一律にいうこともできません。
一方で、商品に含まれる具体的な成分によっては、体質によって下痢が起こることがあります。
NIDDKでは、特定の糖質を十分に消化・吸収できない場合に下痢が起こることや、ソルビトール、マンニトール、キシリトールなどの糖アルコールが下痢の原因になる場合があるとしています。[6]
つまり確認したいのは、
「添加物が入っているかどうか」
だけではなく、
自分に合わない特定の原材料や成分が含まれていないか
という点です。
毎回同じ鍋つゆで症状が出る場合には、商品名や原材料を記録しておくと原因を探る手がかりになります。
食べてから時間がたって下痢したら「食中毒」も考える
食事中や食後すぐに起こる便意とは別に、時間がたってから下痢や腹痛が始まった場合には、食中毒の可能性も考える必要があります。
鍋料理では、
- 肉
- 魚介類
- 生卵
- 加熱前の食材
などを同じ食卓で扱うことがあります。
豚肉などの食肉は、中心部まで十分に加熱することが重要です。
厚生労働省は、食肉について中心温度75℃で1分間以上の加熱を目安としています。[7]
また、
- 生肉を触った箸でそのまま食事をする
- 生肉を切ったまな板で加熱済み食品を扱う
- 加熱前の食材から調理済み食品に菌が移る
といった二次汚染にも注意が必要です。[7]
作り置きの鍋では「ウェルシュ菌」にも注意
鍋料理を翌日に食べる場合には、保存方法も重要です。
煮込み料理では、ウェルシュ菌による食中毒が起こることがあります。
ウェルシュ菌は熱に強い芽胞をつくるため、加熱調理後にも生き残ることがあります。[8]
農林水産省では、ウェルシュ菌による食中毒の原因になりやすい料理として、
- 煮物
- カレー
- シチュー
- スープ
などの煮込み料理を挙げています。[8]
食後6〜18時間、平均10時間ほどで、腹痛や下痢などが起こるとされています。[8]
ただし、
「10時間後に下痢したからウェルシュ菌」
と時間だけで原因を判断することはできません。
鍋を保存するときのポイント
作った鍋を保存する場合は、
- 常温で長時間放置しない
- 残った料理は小分けにする
- できるだけ早く冷ます
- 速やかに冷蔵または冷凍する
- 再加熱するときは全体をよく混ぜ、中心まで十分に加熱する
ことが大切です。[8]
「加熱した鍋だから大丈夫」と考えず、調理後に菌を増やさないことも重要です。
作り置きとウェルシュ菌については、豚の角煮の記事でも詳しく解説しています。
鍋を食べても下痢をしにくくするには?
毎回鍋を食べるとお腹がゴロゴロする方は、原因を一つに決めつけず、条件を少しずつ確認してみましょう。
たとえば、
- 一度に食べる量を少し減らす
- ゆっくり食べる
- 満腹なのに締めまで食べない
- 脂身の多い肉を減らしてみる
- アルコールを一緒に飲まない日を作る
- 症状が出た鍋の具材を記録する
- 毎回同じ鍋つゆや食材で症状が出ないか確認する
といった方法があります。
NIDDKでも、下痢の原因になっている食品を探すため、食べたものと症状を記録する方法を紹介しています。[4]
鍋そのものを禁止するのではなく、
「自分は何を、どのくらい食べたときに症状が出るのか」
を確認することが大切です。
鍋を食べて下痢したときの対処法
一時的な下痢で強い症状がない場合は、まず水分を補いながら様子をみます。
下痢では水分と電解質が失われるため、水分と電解質を補うことが大切です。[9]
必要に応じて、経口補水液などを利用します。
また、急性の下痢があるときは、
- 脂肪の多い食品
- アルコール
- カフェイン
- 大量の単純糖
- 糖アルコール
などが症状を悪化させる可能性があります。[4]
無理に絶食する必要はなく、食欲が戻れば、体調をみながら普段の食事へ戻していきます。[4]
こんな場合は医療機関へ
一時的な軟便で、その後すぐ改善する場合は自然に落ち着くこともあります。
ただし成人では、
- 下痢が2日以上続く
- 1日に6回以上のゆるい便がある
- 嘔吐を繰り返す
- 強い腹痛がある
- 高い熱がある
- 血便や黒い便がある
- 脱水症状がある
といった場合には、医療機関へ相談してください。[6]
脱水のサインには、
- 強いのどの渇き
- 口の乾燥
- 尿が少なくなる
- だるさ
- めまい・ふらつき
- 尿の色が濃くなる
などがあります。[6]
また、
鍋を食べるたびに強い腹痛や下痢を繰り返す
場合も、一度医療機関へ相談するとよいでしょう。
食後の強い便意は生理的な胃結腸反射によることもありますが、症状が繰り返す場合には、過敏性腸症候群などが関係していることもあります。[3]
まとめ|「鍋だから下痢」ではなく、何が重なったかを確認する
鍋を食べたあとに下痢やお腹のゴロゴロが起こっても、鍋そのものが悪いとは限りません。
特に食後すぐに便意が起こる場合には、食事をきっかけに大腸が動く胃結腸反射が関係していることがあります。[1][2]
そのうえで、
- 食べた量
- 脂の多さ
- アルコール
- 玉ねぎ・にんにく・きのこなど特定の具材
- 鍋つゆの具体的な原材料
- 食中毒
- 作り置きの保存方法
などを一つずつ確認してみましょう。
「熱い鍋で内臓が驚く」「食品添加物を下痢で排出する」といった説明だけで原因を決めるのではなく、実際に何をどのくらい食べ、いつ症状が出たのかを見ることが大切です。
参考文献・参考情報
[1] Snape WJ Jr, Wright SH, Battle WM, Cohen S.
The gastrocolic response: evidence for a neural mechanism.
Gastroenterology. 1979;77(6):1235-1240.
DOI: 10.1016/0016-5085(79)90162-8
PMID: 583043
標準的な食事および脂質のみの試験食後の直腸S状結腸の運動増加について参照。
PubMedで確認する
[2] Wiley J, Tatum D, Keinath R, Owyang C.
Participation of gastric mechanoreceptors and intestinal chemoreceptors in the gastrocolonic response.
Gastroenterology. 1988;94(5 Pt 1):1144-1149.
DOI: 10.1016/0016-5085(88)90005-4
PMID: 3350283
健常者16人における胃拡張と、十二指腸への脂質投与による直腸S状結腸運動の増加について参照。
PubMedで確認する
[3] Dorfman L, El-Chammas K, Mansi S, Kaul A.
Gastrocolonic Response.
Curr Gastroenterol Rep. 2022;24(11):137-144.
DOI: 10.1007/s11894-022-00849-2
PMID: 36324042
胃結腸反射の生理、胃拡張・カロリー・脂肪との関係、IBSなどとの関連について補足的に参照。
PubMedで確認する
[4] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Eating, Diet, & Nutrition for Diarrhea.
急性下痢時の脂肪の多い食品、アルコール、カフェイン、単純糖、糖アルコール、食事記録、食事の戻し方について参照。
NIDDKの資料を確認する
[5] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Eating, Diet, & Nutrition for Irritable Bowel Syndrome.
低FODMAP食、玉ねぎ、にんにく、きのこ、キャベツなどの食品例、食事の再導入について参照。
NIDDKの資料を確認する
[6] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Symptoms & Causes of Diarrhea.
糖質の消化・吸収不良、糖アルコール、成人の受診目安、脱水症状について参照。
NIDDKの資料を確認する
[7] 厚生労働省.
食中毒予防:お肉はよく加熱して食べよう ~お肉の生食はとても危険です!~
中心温度75℃で1分間以上の加熱、二次汚染の予防について参照。
厚生労働省の資料を確認する
[8] 農林水産省.
煮込み料理を楽しむために~ウェルシュ菌による食中毒にご注意を!!~
更新日:令和6年7月16日
ウェルシュ菌、食後6~18時間で起こる腹痛・下痢、煮込み料理の小分け・急冷・保存・再加熱について参照。
農林水産省の資料を確認する
[9] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Treatment of Diarrhea.
下痢時の水分・電解質補給について参照。
NIDDKの資料を確認する
執筆・監修
箕浦雅子(薬剤師)
株式会社健将 代表取締役
薬剤師としての専門知識を基盤に、長年にわたり健康・食品分野に携わり、食品と体調との関係をはじめとする健康情報の発信を行っています。
株式会社健将は健康食品の企画・開発・販売も行っています。本サイトでは、公的機関・医学論文などを確認しながら、一般の方にも分かりやすい健康情報の提供に努めています。
利益相反(COI)について
執筆者は株式会社健将の代表取締役であり、同社は健康食品の企画・開発・販売を行っています。
本サイトおよび執筆者は、特定の鍋つゆ商品、食品メーカー等との広告・協賛関係はありません。
本記事は、特定の食品・商品を批判または推奨することを目的としたものではなく、公的機関・医学論文等をもとに一般的な健康情報を提供することを目的としています。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を指示するものではありません。症状が続く場合、強い症状がある場合は、医療機関へご相談ください。
