豚の角煮で下痢・腹痛になるのはなぜ?脂の多い食事・脂肪便・食中毒との違い

執筆・監修:箕浦雅子(薬剤師)|株式会社健将 代表取締役

「豚の角煮を食べたあとに下痢になった」

「脂が多かったから、お腹を壊したのかな?」

「これって脂肪便?それとも食中毒?」

そんな不安を感じる方もいるでしょう。

結論からいうと、豚の角煮を食べたあとに下痢や腹痛が起きても、原因が必ず「角煮の脂」とは限りません。

考えられるのは、

  • 脂の多い食事で下痢が悪化した
  • 一度にたくさん食べた
  • 一緒に食べた料理や飲み物が影響した
  • 食中毒や感染性胃腸炎が起きた
  • もともと脂肪の消化・吸収に問題がある

といったケースです。[1][5]

特に角煮のような煮込み料理では、調理後の保存状態によって、ウェルシュ菌による食中毒が起こることもあります。[9]

また、

「脂っこいものを食べて下痢した=脂肪便」

ではありません。

脂肪便は、脂肪の消化・吸収がうまくできないときにみられる便で、膵臓、胆汁、小腸などの働きが関係します。[3][4]

この記事では、豚の角煮を食べたあとに下痢が起こる理由、脂肪便との違い、食中毒を疑うポイント、受診の目安まで整理します。

豚の角煮で下痢・腹痛になることはある?

豚の角煮は、豚バラ肉など脂肪の多い部位を使うことが多い料理です。

脂の多い食事は、人によっては下痢の症状を悪化させることがあります。

NIDDKでは、急性の下痢のときに症状を悪化させる可能性がある食品として、揚げ物、ピザ、ファストフードなどの脂肪の多い食品を挙げています。[1]

そのため、

「角煮を食べたあとにお腹がゆるくなる」

という人がいても不思議ではありません。

ただし、角煮を食べれば誰でも下痢になるわけではありません。

同じ角煮でも、

  • 食べた量
  • 脂身の多さ
  • その日の体調
  • 一緒に食べた食品や飲み物
  • もともとの胃腸の状態

などによって反応は変わります。

① 脂の多い食事で下痢が悪化することがある

角煮でまず考えたいのが、脂の多さです。

急性の下痢のときには、脂肪の多い食品が症状を悪化させる場合があります。[1]

ただし、ここで注意したいのは、

「脂を食べたから、その脂がそのまま便に流れて下痢になる」

という単純な仕組みではないことです。

脂肪を正常に吸収するためには、胆汁、膵臓から分泌される消化酵素、正常に働く小腸が必要です。[3]

通常の消化・吸収機能が保たれていれば、脂を含む食品を食べたからといって、それだけで脂肪便になるわけではありません。

② 「食べすぎ」や一緒に食べたものも確認

角煮は味が濃く、ご飯やお酒、ほかのおかずと一緒に食べることも多い料理です。

そのため、下痢になったときは角煮だけを見るのではなく、

  • 角煮をどのくらい食べたか
  • ご飯や麺類なども多く食べなかったか
  • アルコールを飲んでいなかったか
  • 乳製品や甘いものを一緒に摂っていなかったか
  • ほかの人にも同じ症状が出ていないか

などを確認してみましょう。

下痢の原因には、食中毒、感染症、薬の副作用、食物不耐症など、さまざまなものがあります。[5]

「角煮を食べたあとだから、角煮が原因」と決めつけず、その日の食事全体を見ることが大切です。

③ 角煮のあとに下痢したら「食中毒」も考える

豚肉を使った料理では、食中毒の可能性も忘れてはいけません。

厚生労働省によると、豚肉を含む食肉には、サルモネラ属菌などの病原微生物が付着している可能性があります。[2]

そのため、生や加熱不十分な肉を避け、

中心温度75℃で1分間以上

を目安に、中心部まで十分に加熱することが大切です。[2]

また、生肉を扱った包丁やまな板、手指などを介して、ほかの食品に菌が移る「二次汚染」にも注意が必要です。[2]

食中毒を疑いやすい症状

食中毒では、原因によって、

  • 下痢
  • 腹痛
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 発熱

などがみられることがあります。

特に、同じ料理を食べた複数の人に似た症状が出ている場合は、食事由来の原因を考える手がかりになります。

煮込み料理で注意したい「ウェルシュ菌」

角煮のような煮込み料理で特に知っておきたいのが、ウェルシュ菌です。

ウェルシュ菌は、熱に強い「芽胞(がほう)」をつくる細菌です。

芽胞とは、細菌が高温などの厳しい環境に耐えるためにつくる、殻のような構造です。

この芽胞は熱に強く、100℃でも生き残ることがあります。[9]

そのため、

「長時間煮込んだから、食中毒の心配はない」

とは言い切れません。

ウェルシュ菌で特に問題になりやすいのは、加熱したあとの保存方法です。

作り置きした角煮は保存方法に注意

ウェルシュ菌は、加熱後の料理が菌の増えやすい温度帯に長く置かれると、増殖することがあります。[9]

特に、

  • 大きな鍋で大量に作った
  • 調理後、鍋のまま室温に長く置いた
  • 作り置きした料理がゆっくり冷めた
  • 冷蔵庫に入れるまで時間がかかった

といった場合には注意が必要です。

農林水産省では、ウェルシュ菌による食中毒の原因になりやすい料理として、煮物、カレー、シチューなどの煮込み料理を挙げています。[9]

カレーを食べたあとに下痢する原因については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

家庭のカレーで下痢になるのはなぜ?原因と対処法を見る

角煮も煮込み料理の一つなので、保存方法に注意することが大切です。

ウェルシュ菌ではどんな症状が出る?

ウェルシュ菌による食中毒では、原因となった食品を食べてから6〜18時間ほど、平均10時間程度で、

  • 腹痛
  • 下痢

などが起こることがあります。[9]

ただし、

「食べてから○時間後に下痢したからウェルシュ菌」

と、症状が出た時間だけで原因を特定することはできません。

角煮を保存するときのポイント

作った角煮をすぐに食べない場合は、

  • 調理後、常温で長時間放置しない
  • 保存する場合は小分けにする
  • できるだけ早く冷ます
  • 速やかに冷蔵または冷凍する
  • 食べるときは中心まで十分に再加熱する

ことが大切です。[9]

大きな鍋のままでは料理の中心部がゆっくり冷えるため、小分けにして早く温度を下げることが予防につながります。[9]

また、ウェルシュ菌の芽胞は熱に強いため、

「再加熱すれば、長時間常温に置いた料理でも必ず安全」

という意味ではありません。[9]

角煮の食中毒対策では、

「豚肉を十分に加熱すること」

と

「調理後に菌を増やさないこと」

の両方が大切です。

「角煮で下痢した=脂肪便」ではない

「脂っこいものを食べると脂肪便になる」と言われることもありますが、実際は少し意味が異なります。

角煮を食べたあとに一時的に下痢になっただけで、脂肪便と判断することはできません。

脂肪便とは?

脂肪便は、脂肪の消化・吸収がうまくいかず、便の中に脂肪が多く含まれる状態です。[3]

脂肪を正常に吸収するためには、

  • 胆汁
  • 膵臓から出る消化酵素
  • 正常に働く小腸

などが必要です。[3]

これらの働きに問題があると、脂肪の吸収が低下することがあります。

脂っこい食事のあとに一度下痢したことと、脂肪吸収不良によって脂肪便が出ていることは、分けて考える必要があります。

脂肪便はどんな便?

脂肪の吸収不良がある場合、

  • 脂っぽい
  • 悪臭が強い
  • 量が多い
  • ゆるい便が続く
  • 水に浮くことがある

といった便がみられることがあります。[4][6]

ただし、

「便が浮いた=脂肪便」

ではありません。

MedlinePlusでは、便が浮く原因としてガスなどもあり、浮く便の多くは便中脂肪の増加によるものではないと説明しています。[6]

また、脂肪便かどうかは見た目だけでは確定できません。

必要に応じて、便に含まれる脂肪の量を調べる検査などが行われます。[3]

脂肪便が続く場合に考えられること

角煮を食べたあとに一度下痢しただけで、すぐに脂肪の吸収障害などを疑う必要はありません。

一方、

  • 脂っぽく悪臭の強い便が何度も続く
  • 下痢が慢性的に続く
  • 体重が減ってきた
  • 食べても体重が増えない
  • 腹痛やお腹の張りが続く

といった場合は、脂肪の消化・吸収に問題がないか確認する必要があります。

膵外分泌不全とは?

膵外分泌不全(すいがいぶんぴつふぜん)とは、膵臓から出る消化酵素が不足し、食べ物を十分に消化できなくなる状態です。

EPIと呼ばれることもあります。

症状として、

  • 下痢
  • 腹痛や腹部不快感
  • 脂っぽく悪臭のある便
  • 体重減少

などがみられることがあります。[4]

原因には、慢性膵炎など膵臓に関係する病気や、膵臓・消化管の手術などがあります。[4]

セリアック病などの吸収不良

小腸で栄養を十分に吸収できない病気でも、脂っぽい便や慢性下痢が起こることがあります。

その一例が、セリアック病です。

セリアック病は、小麦などに含まれるグルテンに対する免疫反応によって、小腸に障害が生じる病気です。

NIDDKでは、症状として、

  • 慢性下痢
  • 腹部膨満
  • 腹痛
  • 脂っぽく量が多く、悪臭のある便

などを挙げています。[7]

脂肪便を疑うような便が何度も続いていないか、体重減少などを伴っていないかが、受診を考えるうえで重要です。

豚の角煮を食べて下痢したときの対処法

一時的な下痢で、強い症状がない場合は、まず水分を補いながら様子をみます。

下痢では水分と電解質が失われるため、水分と電解質を補うことが大切です。[8]

必要に応じて、経口補水液などを利用します。

また、急性の下痢がある間は無理に脂っこいものを食べず、体調をみながら食事を戻していきましょう。[1]

次のようなことを記録しておくと、原因を考える手がかりになります。

  • 角煮をどのくらい食べたか
  • 脂身が多かったか
  • 一緒に何を食べたか
  • 何時ごろ食べたか
  • 食後どのくらいで症状が出たか
  • 発熱や嘔吐がなかったか
  • 同じものを食べた人にも症状が出ていないか
  • 作り置きした角煮だったか
  • どのように保存されていたか

特に作り置きの角煮を食べたあとに下痢や腹痛が起こった場合は、保存方法も確認しておきましょう。

「角煮を食べるたびに同じ症状が起こる」という場合は、食べた量や脂身の多さとの関係を記録し、必要に応じて医師へ相談してください。

こんな場合は医療機関へ

一時的な下痢で、その後すぐ改善する場合は自然に落ち着くこともあります。

ただし成人では、

  • 下痢が2日以上続く
  • 1日に6回以上のゆるい便がある
  • 嘔吐を繰り返す
  • 強い腹痛がある
  • 高い熱がある
  • 血便や黒い便がある
  • 脱水症状がある

といった場合には、医療機関へ相談してください。[5]

脱水のサインには、

  • 強いのどの渇き
  • 口の乾燥
  • 尿が少なくなる
  • だるさ
  • めまい・ふらつき
  • 尿の色が濃くなる

などがあります。[5]

また、

「脂っぽく悪臭の強い便が何度も続く」
「体重減少を伴う」

という場合も、脂肪の消化・吸収に問題がないか医療機関で相談した方がよいでしょう。[4]

まとめ|角煮を食べて下痢しても「脂のせい」と決めつけない

豚の角煮を食べたあとに下痢や腹痛が起こることはあります。

ただし、原因は一つではありません。

確認したいのは、

  • 脂の多い食事だったか
  • 一度に多く食べていなかったか
  • 一緒に食べたもの
  • 食中毒の可能性
  • 作り置きや保存方法
  • 症状が繰り返していないか

という点です。

角煮のような煮込み料理では、ウェルシュ菌による食中毒にも注意が必要です。

十分に加熱していても、調理後の保存状態によって菌が増殖することがあります。[9]

また、

「脂っこいものを食べて下痢した=脂肪便」

ではありません。

脂肪便は、脂肪の消化・吸収がうまくいかないときにみられるもので、膵臓、小腸、胆汁などの働きが関係します。[3][4]

一度きりの下痢で改善する場合は、過度に心配する必要はありません。

一方、下痢が続く、強い腹痛や発熱がある、脂っぽく悪臭の強い便や体重減少が続く場合は、医療機関へ相談してください。

参考文献・参考情報

[1] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Eating, Diet, & Nutrition for Diarrhea.
急性の下痢の際に、脂肪の多い食品が症状を悪化させる可能性があることについて参照。
NIDDKの資料を確認する

[2] 厚生労働省.
食中毒予防:お肉はよく加熱して食べよう ~お肉の生食はとても危険です!~
豚肉を含む食肉に付着する病原微生物、中心温度75℃で1分間以上の加熱、二次汚染の予防について参照。
厚生労働省の資料を確認する

[3] U.S. National Library of Medicine. MedlinePlus.
Fecal fat.
脂肪の吸収に胆汁、膵臓の酵素、正常に働く小腸が必要であること、便中脂肪検査について参照。
MedlinePlusで確認する

[4] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Symptoms & Causes for Exocrine Pancreatic Insufficiency.
膵外分泌不全に伴う下痢、脂っぽく悪臭のある便、体重減少などについて参照。
NIDDKの資料を確認する

[5] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Symptoms & Causes of Diarrhea.
急性下痢の原因、脱水症状、成人で医療機関へ相談する目安について参照。
NIDDKの資料を確認する

[6] U.S. National Library of Medicine. MedlinePlus.
Stools – floating.
浮く便と脂肪吸収不良との関係について参照。
MedlinePlusで確認する

[7] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Symptoms & Causes of Celiac Disease.
慢性下痢、腹部膨満、腹痛、脂っぽく量が多く悪臭のある便などについて参照。
NIDDKの資料を確認する

[8] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Treatment of Diarrhea.
下痢時の水分・電解質補給について参照。
NIDDKの資料を確認する

[9] 農林水産省.
煮込み料理を楽しむために~ウェルシュ菌による食中毒にご注意を!!~
更新日:令和6年7月16日
ウェルシュ菌の芽胞、煮込み料理での増殖、食後6~18時間で起こる腹痛・下痢、小分け・急冷・冷蔵・冷凍・再加熱などの予防方法について参照。
農林水産省の資料を確認する

執筆・監修

箕浦雅子(薬剤師)
株式会社健将 代表取締役

薬剤師としての専門知識を基盤に、長年にわたり健康・食品分野に携わり、食品と体調との関係をはじめとする健康情報の発信を行っています。

株式会社健将は健康食品の企画・開発・販売も行っています。本サイトでは、公的機関・医学論文などを確認しながら、一般の方にも分かりやすい健康情報の提供に努めています。

利益相反(COI)について

執筆者は株式会社健将の代表取締役であり、同社は健康食品の企画・開発・販売を行っています。

本サイトおよび執筆者は、特定の豚肉商品、食品メーカー等との広告・協賛関係はありません。

本記事は、特定の食品・商品を批判または推奨することを目的としたものではなく、公的機関・医学論文等をもとに一般的な健康情報を提供することを目的としています。

※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を指示するものではありません。症状が続く場合、強い症状がある場合は、医療機関へご相談ください。