執筆・監修:箕浦雅子(薬剤師)|株式会社健将 代表取締役
「車に乗るとお腹が痛くなる」
「乗り物酔いのあとに下痢をすることがある」
「吐き気ではなく、お腹を壊すのも乗り物酔い?」
そんな経験をしたことはありませんか。
結論からいうと、乗り物酔いでは吐き気やめまいだけでなく、胃の不快感や便意などの胃腸症状が起こることがあります。[1][2]
ただし、下痢は乗り物酔いの代表的な症状とはいえません。
そのため、
「乗り物に乗るたびに下痢になる」
「下痢が何日も続く」
という場合には、乗り物酔いだけで説明せず、ほかの原因も考える必要があります。
この記事では、車酔い・船酔いなどの乗り物酔いと下痢・腹痛の関係、乗り物酔いが起こる仕組み、予防法、受診を考えた方がよい症状について薬剤師が解説します。
乗り物酔いで下痢になることはある?

乗り物酔いは、医学的には「動揺病(motion sickness)」と呼ばれます。
典型的な症状は、
- 吐き気
- 嘔吐
- めまい
- 冷や汗
- 顔面蒼白
- 眠気
- 頭痛
- 胃の不快感
などです。[1]
国際的な診断基準では、乗り物酔いによる胃腸症状として、
- 吐き気
- 胃の不快感
- 嘔吐
- げっぷ
- 食欲の変化
- 便意
などが挙げられています。[2]
つまり、
「乗り物酔いでは胃腸も反応することがある」
ということです。
一方で、下痢そのものは診断基準の中心的な症状ではありません。
乗り物に乗ったときに便意が強くなったり、もともと腸が敏感な人で便がゆるくなったりする可能性はありますが、
「車酔い=下痢になる」
と単純に考えない方がよいでしょう。
乗り物酔いはなぜ起こる?
乗り物酔いの仕組みとして、現在もっとも広く受け入れられているのが「感覚のずれ」です。[1][2]
私たちは、自分の体がどこにあり、どのように動いているのかを、
- 目から入る情報
- 内耳の前庭・三半規管から入る情報
- 筋肉や関節などから入る情報
を組み合わせて判断しています。
ところが、車や船などで揺られると、
「目から入る情報」と
「内耳が感じている動き」
が一致しないことがあります。
たとえば車内で本やスマートフォンを見ていると、目には「動いていない画面」が映っています。
一方、内耳では車の加速・減速・カーブなどの動きを感じています。
このような感覚の不一致が続くと、脳が処理しきれなくなり、乗り物酔いの症状が起こりやすくなると考えられています。[1][2]
なぜお腹まで反応するの?
乗り物酔いは、耳だけの問題ではありません。
動きに対する感覚のずれが起こると、自律神経系の反応も変化します。
その結果、
- 冷や汗
- 顔面蒼白
- 唾液の増加
- 胃の不快感
- 吐き気
- 嘔吐
など、全身にさまざまな反応が現れます。[1][3]
乗り物酔いの際には、胃の正常な電気活動が低下したり、胃から食べ物を送り出す働きが遅くなったりすることも報告されています。[3]
つまり、
「自律神経が乱れるから下痢になる」
と考えるよりも
乗り物酔いでは自律神経系と胃腸の働きの両方に変化が起こり、その現れ方には個人差がある
と考える方が正確です。
車酔い・船酔い・飛行機酔いは同じもの?
基本的な仕組みは共通しています。
乗り物酔いは、
- 車
- バス
- 電車
- 船
- 飛行機
- 遊園地の乗り物
など、さまざまな動きによって起こります。[1]
ただし、
「車は平気だけれど船では酔う」
「飛行機では平気だけれどバスで酔う」
という人もいます。
乗り物酔いのなりやすさは、乗り物の種類だけでは決まりません。
揺れ方、加速度、視界、座る位置、その人自身の感受性などによって変わります。[1][2]
そのため、
「船が一番酔いやすい」
「車より飛行機の方が酔いやすい」
と一律に順位をつけることはできません。
3D酔い・VR酔いでも同じような症状が起こる
実際に体が動いていなくても、視覚情報だけで乗り物酔いに似た症状が起こることがあります。
これは「視覚誘発性動揺病(visually induced motion sickness:VIMS)」と呼ばれます。[2]
たとえば、
- VR
- 3Dゲーム
- ドライビングゲーム
- シミュレーター
- 大画面映像
などです。
目では激しく動いているように見える一方、内耳では「体は動いていない」と感じます。
この視覚と内耳の情報のずれによって、
- 吐き気
- めまい
- 頭痛
- 眼精疲労
- 胃腸の不快感
などが起こることがあります。[1][2]
生あくびや冷や汗は「酔い始め」のサイン
乗り物酔いは、いきなり吐くとは限りません。
症状は徐々に強くなることが多く、
- 胃がなんとなく気持ち悪い
- 体が熱く感じる
- あくびが出る
- 冷や汗が出る
- 顔色が悪くなる
- めまいがする
- 唾液が増える
といった症状から始まり、吐き気や嘔吐へ進むことがあります。[1]
「ちょっと気持ち悪いだけだから大丈夫」
と我慢するより、この段階で対策した方がよいでしょう。
乗り物酔いを防ぐには?
乗り物酔い対策では、目と内耳から入る情報のずれをできるだけ小さくすることがポイントです。
遠くの景色や水平線を見る
車や船では、できるだけ進行方向や遠くの景色を見るようにします。
船では水平線を見ることも、乗り物酔いを減らす方法として知られています。[1]
本やスマートフォンを見続けない
車内で本やスマートフォンを見ると、
目では「動いていないもの」を見ている一方、内耳では「体が動いている」と感じます。
この感覚のずれが大きくなるため、酔いやすい人は画面を長時間見ない方がよいでしょう。[1]
頭を大きく動かさない
頭を頻繁に動かすと、内耳への刺激が増えます。
座席に頭を預けるなどして、できるだけ頭の動きを少なくすると症状を軽減できる場合があります。[1]
揺れの少ない場所を選ぶ
乗り物によっては、揺れが比較的小さい場所があります。
たとえば飛行機では翼付近、船では揺れの大きい場所を避けることが対策になります。[1]
睡眠不足を避ける
睡眠不足は、乗り物酔いを悪化させる可能性があります。[1]
旅行や長距離移動の前日は、できるだけ睡眠を確保しておきましょう。
空腹と食べ過ぎ、どちらがよくない?
「乗り物酔いしないように何も食べない方がいい」
と考える人もいますが、極端な空腹もおすすめできません。
一方で、出発直前に大量に食べることも避けた方がよいでしょう。
CDCでは、少量ずつ食べることや水分をとることが案内されています。[1]
そのため、
- 空腹のまま長時間乗らない
- 出発直前に大量に食べない
- 脂っこいものを大量に食べない
- 水分を適度にとる
といった程度を意識するとよいでしょう。
酔い止めは「酔ってから」より「乗る前」
乗り物酔いの薬は、症状が強く出てからよりも、乗り物に乗る前に使用した方が効果を得やすいものがあります。[1]
ただし、酔い止め薬には、
- 眠気
- 口の渇き
- 目のかすみ
などの副作用が出ることがあります。
特に、
- 子ども
- 高齢者
- 妊娠中
- 緑内障などの持病がある人
- 他の薬を服用している人
では、使用できる薬や注意点が異なります。
市販薬を使う場合も、添付文書を確認し、不安があれば薬剤師や医師に相談してください。
毎回「車に乗ると下痢」なら、本当に乗り物酔い?
ここは重要です。
乗り物に乗るたびに下痢をするからといって、すべてを乗り物酔いで説明できるとは限りません。
乗り物酔いの場合は一般に、
乗り物や視覚的な動きにさらされている間に症状が始まり、動きが止まると次第に改善する
という特徴があります。[2]
一方で、
- 乗車前から下痢している
- 乗り物から降りても長時間続く
- 乗らない日にも下痢する
- 発熱がある
- 血便がある
- 強い腹痛がある
場合には、別の原因を考える必要があります。
また、
「車に乗ると下痢になるかもしれない」
という経験を繰り返すことで、乗車前から緊張や不安が強くなる人もいます。
国際的な診断基準でも、乗り物酔いを繰り返す人では、乗り物を避けるようになったり、乗る前から嫌悪感や不安を感じたりすることがあるとされています。[2]
こんな場合は医療機関へ
乗り物酔いは、多くの場合、乗り物から降りてしばらくすると改善します。
ただし、
- 下痢が何日も続く
- 血便がある
- 黒い便が出る
- 高熱がある
- 強い腹痛がある
- 嘔吐を繰り返して水分が取れない
- 乗り物に乗っていないときにもめまい・吐き気がある
- 急に今までと違う強い乗り物酔いが起こる
- 乗り物から降りたあとも強いふらつきが続く
といった場合には、乗り物酔いだけと決めつけず、医療機関へ相談してください。
まとめ|乗り物酔いで胃腸症状は起こるが、下痢だけなら別の原因も考える
乗り物酔いでは、
- 吐き気
- めまい
- 冷や汗
- 顔面蒼白
- 胃の不快感
- 便意
など、さまざまな症状が起こることがあります。
その背景には、目・内耳・体から入る動きの情報のずれと、自律神経系や胃腸機能の変化が関係していると考えられています。[1][2][3]
人によっては、乗り物に乗ったときに便がゆるくなることも考えられます。
ただし、
下痢は乗り物酔いの典型症状ではありません。
「車に乗ると必ず下痢になる」
「乗り物を降りても下痢が続く」
という場合には、乗り物酔い以外の原因も含めて考えることが大切です。
乗り物酔いしやすい人は、
遠くを見る・スマートフォンや読書を控える・頭を動かしすぎない・十分に睡眠をとる
など、まずできる対策から試してみましょう。
参考文献・参考情報
[1] Centers for Disease Control and Prevention(CDC).
Motion Sickness. CDC Yellow Book 2026.
乗り物酔いの症状、感覚のずれ、予防法、薬物療法について参照。
CDC Yellow Bookを確認する
[2] Cha YH, Golding JF, Keshavarz B, Furman J, Kim JS, Lopez-Escamez JA, Magnusson M, Yates BJ, Lawson BD.
Motion sickness diagnostic criteria: Consensus Document of the Classification Committee of the Bárány Society.
J Vestib Res. 2021;31(5):327-344.
DOI: 10.3233/VES-200005. PMID: 33646187. PMCID: PMC9249300.
PubMedで確認する
[3] Muth ER.
Motion and space sickness: intestinal and autonomic correlates.
Auton Neurosci. 2006;129(1-2):58-66.
DOI: 10.1016/j.autneu.2006.07.020. PMID: 16950658.
PubMedで確認する
[4] Golding JF.
Motion sickness.
Handb Clin Neurol. 2016;137:371-390.
DOI: 10.1016/B978-0-444-63437-5.00027-3. PMID: 27638085.
PubMedで確認する
執筆・監修
箕浦雅子(薬剤師)
株式会社健将 代表取締役
薬剤師としての専門知識を基盤に、長年にわたり健康・食品分野に携わり、腸内環境や食品と体調との関係をはじめとする健康情報の発信を行っています。
株式会社健将は健康食品の企画・開発・販売も行っています。本サイトでは、公的機関・医学論文などを確認しながら、一般の方にも分かりやすい健康情報の提供に努めています。
利益相反(COI)について
執筆者は株式会社健将の代表取締役であり、同社は健康食品の企画・開発・販売を行っています。
本記事は、特定の交通機関、乗り物酔い治療薬、医薬品メーカー等を批判・推奨することを目的としたものではなく、公的機関・医学論文等をもとに一般的な健康情報を提供することを目的としています。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を目的とするものではありません。症状が続く場合や気になる症状がある場合は、医療機関へご相談ください。
