執筆・監修:箕浦雅子(薬剤師)|株式会社健将 代表取締役
「胃薬を飲んだあとに下痢になった。成分を見たら重曹が入っていた」
「食べたものに重曹が使われていたけれど、これがお腹を壊した原因?」
「重曹を間違って口にしてしまったけれど、大丈夫?」
そんな疑問を持つ方もいるでしょう。
結論からいうと、重曹(炭酸水素ナトリウム)が含まれる胃薬や食品を摂ったからといって、必ず下痢になるわけではありません。
重曹は医薬品では制酸成分として使われ、食品では蒸しパンなどのふくらし粉や、野菜の水煮のあく抜きなどに利用されています。[1][2]
MedlinePlusの患者向け情報では、経口の炭酸水素ナトリウムの副作用として、のどの渇き、腹部けいれん、ガスなどが挙げられていますが、下痢は挙げられていません。[3]
一方、日本の市販制酸薬では、必要に応じて使用上の注意に「下痢」が記載される場合があります。[4]
そのため、胃薬を飲んだあとに下痢になった場合は、
- 重曹そのもの
- 胃薬に含まれるほかの成分(例:マグネシウム)
- 一緒に食べたもの
- 食中毒や感染性胃腸炎
- ほかの薬
など、いくつかの可能性を分けて考えることが大切です。
重曹とは?

重曹の正式名称は炭酸水素ナトリウムです。
化学式はNaHCO₃で、医薬品では胃酸を中和する制酸成分のひとつとして使用されています。
厚生労働省の「胃腸薬製造販売承認基準」でも、炭酸水素ナトリウムは制酸薬に使用される有効成分として収載されています。[1]
一方、重曹は食品添加物としても身近に使われています。
消費者庁の資料では、炭酸水素ナトリウム(重曹)の使用例として、
- 蒸しパンのふくらし粉
- 野菜の水煮のあく抜き
などが紹介されています。[2]
ですから、「食品に重曹が入っている=体に悪いものが入っている」ということではありません。
重曹が入った胃薬を飲んで下痢になることはある?
胃薬や制酸薬には、炭酸水素ナトリウムが配合されている製品があります。
ここで大切なのは、「炭酸水素ナトリウム単独の副作用」と「複数の成分を含む胃薬全体の副作用」を分けて考えることです。
MedlinePlusでは、経口の炭酸水素ナトリウムの副作用として、
- のどの渇き
- 腹部けいれん
- ガス
などが挙げられていますが、下痢は挙げられていません。[3]
一方、日本の一般用制酸薬では、必要に応じて「便秘」「下痢」を使用上の注意に記載することが示されています。[4]
つまり、胃薬を飲んだあとに下痢になったとしても、「重曹だけが原因」とは限りません。
胃薬を飲んだあとに下痢したら、マグネシウムも確認
これは特に確認してほしいポイントです。
NIDDKは、急性の下痢を起こすことがある薬の例として、
- 抗菌薬
- がん治療に用いられる薬
- マグネシウムを含む制酸薬
を挙げています。[7]
また、厚生労働省の「胃腸薬製造販売承認基準」には、炭酸水素ナトリウムのほか、
- 酸化マグネシウム
- 水酸化マグネシウム
- 炭酸マグネシウム
- ケイ酸マグネシウム
などのマグネシウムを含む成分も、制酸薬の有効成分として収載されています。[1]
そのため、
「胃薬を飲んだあとに下痢した。成分を見ると重曹が入っていた」
という場合でも、重曹だけを見るのではなく、マグネシウムを含む成分が入っていないかも確認してみてください。
胃薬によっては、下痢との関係を考えるうえで、こちらの方が直接的な手がかりになることがあります。
胃薬を飲んだあとに下痢したら、成分全体を確認する
一般的な胃薬には、ひとつの成分だけではなく、
- 制酸成分
- 健胃成分
- 消化酵素
- 胃腸の働きを調整する成分
など、複数の成分が配合されていることがあります。
そのため、胃薬を飲んだあとに下痢になった場合は、「重曹が入っていたか」だけで判断せず、胃薬全体の成分と使用上の注意を確認することが大切です。
特に、
- その胃薬を飲むたびに下痢する
- 飲むのをやめると改善する
- 再び飲むと同じ症状が出る
という場合は、その胃薬が関係している可能性も考えられます。
薬の商品名が分かる状態で、薬剤師や登録販売者に相談するとよいでしょう。
食品に入っている重曹で下痢になることはある?
食品に使用される重曹は、食品添加物として認められている炭酸水素ナトリウムです。
蒸しパンなどを膨らませたり、野菜のあく抜きに使ったりするなど、食品加工では身近な成分です。[2]
そのため、食品表示を見て、
「重曹が入っているから下痢になったのでは?」
と心配になる方もいるでしょう。
しかし、食品に適切に使用された重曹を食べたというだけで、下痢の原因と決めつけることはできません。
急性の下痢では、ウイルス性胃腸炎、食中毒、薬の副作用などもよくみられる原因です。[7]
食後に下痢になった場合は、
- その食品をどのくらい食べたか
- 一緒に何を食べたか
- 同じものを食べた人にも症状が出ていないか
- 食後どのくらいで症状が出たか
なども確認してみましょう。
重曹を間違って口にしてしまったら?
料理に使う程度の食品用重曹を少量口にした場合と、大量に摂取した場合では考え方が違います。
炭酸水素ナトリウムは医薬品としても使われますが、だからといって大量に摂っても安全という意味ではありません。
重曹はナトリウムを含むため、多量に摂るとナトリウム摂取量も増えます。
MedlinePlusでは、高血圧、心不全、腎臓病がある人や、ナトリウム制限をしている人は、使用前に医師へ相談するよう案内されています。[3]
もし、
- どのくらい口にしたか分からない
- 大量に摂った可能性がある
- 子どもが誤って口にした
- 吐き気や腹痛などの症状が出ている
という場合は、医療機関または日本中毒情報センター「中毒110番」へ相談できます。
一般向けの中毒110番は365日24時間対応です。[5]
大阪中毒110番:072-727-2499
つくば中毒110番:029-852-9999
電話番号のかけ間違いが多いことも公式サイトで注意喚起されていますので、電話する際は番号をよく確認してください。
なお、中毒110番は、実際に起きた急性中毒事故についての相談窓口です。通常量の医薬品による副作用や、細菌性食中毒が疑われる下痢などは相談対象ではありません。[5]
重曹と胃酸の関係
重曹はアルカリ性の物質で、胃酸と反応して胃の中の酸を中和します。
その際に二酸化炭素が発生するため、人によっては、
- げっぷ
- ガス
- お腹の張り
- 腹部けいれん
などを感じることがあります。
MedlinePlusでも、炭酸水素ナトリウムの副作用としてガスや腹部けいれんが挙げられています。[3]
このような症状が、
「重曹を摂ったあとにお腹の調子が悪くなった」
と感じる理由のひとつになる可能性はあります。
重曹と薬を一緒に飲んでも大丈夫?
「重曹を飲むと胃がアルカリ性になるから、ほかの薬がまったく吸収されなくなる」
という説明を見かけることがありますが、これは言い過ぎです。
一方で、炭酸水素ナトリウムは一部の薬の吸収や作用に影響する可能性があります。
MedlinePlusでは、炭酸水素ナトリウムとほかの薬は少なくとも2時間あけるよう案内されており、処方薬や市販薬、サプリメントなどを使用している場合は、医師や薬剤師に伝えるよう勧めています。[3]
処方薬を飲んでいる方が、重曹を含む制酸薬を追加する場合は、自己判断よりも医師や薬剤師に確認する方が安心です。
「重曹水」を健康のために飲んでもいい?
インターネットなどでは、重曹を水に溶かして飲む方法が紹介されることがあります。
しかし、炭酸水素ナトリウムを健康目的で日常的に飲むことを、この記事ではおすすめしません。
MedlinePlusでは、制酸薬として使用する場合でも、医師の指示がない限り2週間を超えて使用しないよう案内されています。[3]
また、12歳未満の子どもに使用する場合も、医師の指示が必要とされています。[3]
胃の不調が続く場合は、重曹水を自己流で飲み続けるのではなく、症状の原因を確認することが大切です。
「重曹のデトックスで下痢になる」は本当?
重曹について、
「老廃物を排出する」
「デトックス作用で下痢になる」
といった説明を見かけることがあります。
しかし、本記事で参照した公的な医薬品情報や食品添加物情報には、重曹を摂ることで体内の老廃物が排出され、その結果として下痢になるという説明はありません。
下痢が起こった場合は、
- 胃薬のほかの成分
- マグネシウムを含む制酸成分
- 食べたもの
- 食中毒
- ウイルス性胃腸炎
- ほかの薬
なども含めて考える方が適切です。
「デトックスだから大丈夫」と考えて、症状が続いているのに重曹や胃薬を飲み続けることは避けましょう。
重曹を含む胃薬や食品のあとに下痢したときの対処法
一時的な下痢で強い症状がない場合は、まず水分を補いながら様子をみます。
下痢では水分と電解質が失われるため、水分だけでなく電解質も補うことが大切です。[6]
胃薬を飲んだあとなら、
- 胃薬の商品名
- 飲んだ量
- 飲んだ時間
- 成分表にマグネシウムが入っていないか
- 一緒に飲んでいた薬
- 症状が始まった時間
を確認しておきましょう。
食品の場合は、
- 何を食べたか
- どのくらい食べたか
- 一緒に食べた食品
- 同じものを食べた人に症状があるか
を確認すると、原因を考える手がかりになります。
こんな場合は医療機関へ
一時的な軟便で、その後すぐ改善する場合は自然に落ち着くこともあります。
ただし成人では、
- 下痢が2日以上続く
- 1日に6回以上のゆるい便がある
- 嘔吐を繰り返す
- 強い腹痛がある
- 高い熱がある
- 血便や黒い便がある
- 脱水症状がある
といった場合には、医療機関へ相談してください。[7]
脱水のサインには、
- 強いのどの渇き
- 口の乾燥
- 尿が少なくなる
- だるさ
- めまい・ふらつき
- 尿の色が濃くなる
などがあります。[7]
また、重曹を大量に摂った可能性がある場合は、下痢がなくても別です。
摂取量が分からない、子どもが誤飲した、体調に変化があるといった場合は、医療機関または日本中毒情報センターの中毒110番へ相談してください。[5]
まとめ|胃薬なら「重曹以外の成分」も確認しよう
重曹(炭酸水素ナトリウム)は、胃薬の制酸成分として使われるほか、食品添加物としても使われています。
MedlinePlusでは、炭酸水素ナトリウム単独の副作用としてガスや腹部けいれんなどが挙げられていますが、下痢は挙げられていません。[3]
一方、日本の一般用制酸薬では、必要に応じて「下痢」が使用上の注意に記載されることがあります。[4]
さらに、NIDDKはマグネシウムを含む制酸薬を、急性下痢を起こすことがある薬の例として挙げています。[7]
そのため、
「胃薬に重曹が入っていたから、重曹が下痢の原因だ」
とすぐに決めつけるのではなく、
- マグネシウムを含む成分がないか
- 胃薬のほかの成分
- 食べたもの
- 食中毒や感染症
- ほかの薬
なども含めて確認することが大切です。
参考文献・参考情報
[1] 厚生労働省.
胃腸薬製造販売承認基準の一部改正について(令和元年5月30日 薬生発0530第7号)/別紙「胃腸薬製造販売承認基準」.
炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が制酸薬の有効成分として収載されていることについて参照。
厚生労働省の資料を確認する
[2] 消費者庁.
食品添加物表示.
炭酸水素ナトリウム(重曹)が、蒸しパンのふくらし粉や野菜の水煮のあく抜きとして使用される例について参照。
消費者庁の資料を確認する
[3] U.S. National Library of Medicine. MedlinePlus.
Sodium Bicarbonate.
炭酸水素ナトリウムの副作用、ほかの薬との間隔、使用期間、12歳未満での使用、ナトリウム制限等について参照。
MedlinePlusで確認する
[4] 厚生労働省.
かぜ薬等の添付文書等に記載する使用上の注意の一部改正について(令和8年1月13日 医薬薬審発0113第1号・医薬安発0113第3号).
別添「4. 胃腸薬 Ⅰ. 制酸薬を主体とする製剤」において、必要に応じて「便秘、下痢」を使用上の注意に記載することについて参照。
厚生労働省の資料を確認する
[5] 公益財団法人 日本中毒情報センター.
中毒110番・電話サービス.
急性中毒事故に関する一般向け相談窓口、受付時間、電話番号、相談対象外となるケースについて参照。
日本中毒情報センターを確認する
[6] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Treatment of Diarrhea.
下痢時の水分・電解質補給について参照。
NIDDKの資料を確認する
[7] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Symptoms & Causes of Diarrhea.
急性下痢の原因、マグネシウムを含む制酸薬による下痢、脱水症状、成人で医療機関へ相談する目安について参照。
NIDDKの資料を確認する
執筆・監修
箕浦雅子(薬剤師)
株式会社健将 代表取締役
薬剤師としての専門知識を基盤に、長年にわたり健康・食品分野に携わり、食品と体調との関係をはじめとする健康情報の発信を行っています。
株式会社健将は健康食品の企画・開発・販売も行っています。本サイトでは、公的機関・医学論文などを確認しながら、一般の方にも分かりやすい健康情報の提供に努めています。
利益相反(COI)について
執筆者は株式会社健将の代表取締役であり、同社は健康食品の企画・開発・販売を行っています。
本サイトおよび執筆者は、特定の重曹商品、炭酸水素ナトリウム製剤のメーカー等との広告・協賛関係はありません。
本記事は、特定の食品・医薬品・商品を批判または推奨することを目的としたものではなく、公的機関・医薬品情報等をもとに一般的な健康情報を提供することを目的としています。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療、医薬品の使用を指示するものではありません。服用中の薬がある場合や、症状が続く場合、気になる症状がある場合は、医師・薬剤師等にご相談ください。
