下痢は、おなかのトラブルのなかでもつらい症状のひとつです。下痢が続くと日常生活に差し支えたり、体力を消耗し、脱水症状や栄養失調を引き起こしたりすることもあります。
下痢の原因の一つに腸の働きが低下して、腸内の水分調節がうまくいかないことが挙げられます。下痢を改善するには正常な腸の働きに戻す必要があります。
ではどのような時に腸の働きが低下して水分調節がうまくいかないのか、またそれを改善するにはどうすればいいのでしょうか。ご一緒に考えてみましょう。
腸内の便が形作られる過程
口から入った食物は、消化管という1本の管を通り、最後には肛門から便(ウンチ)として出ていきます。食物が便になるまで、お腹の中でどのようになっているのでしょう。便ができるその過程を見てみましょう。
腸は大きく、小腸、大腸に分かれており、小腸は主に食べ物の消化と栄養分の吸収を行っています。 大腸では、1日約1.5Lから2Lの液状の消化物が運び込まれ、徐々に水分が吸収されていきます。
液状の消化物は、まず大腸の上行結腸で水分が吸収されて消化物は半流動状になります。次に横行結腸で粥状に、下行結腸で半粥状になり、S状結腸では半固形まで水分が吸収されます。最後に直腸で適度な固さのかたまりとなり、最終的に1日あたり約100~250gの固形便となります。
便の中身を見てみると、健康な人でバナナ状、水分が70%~80%、残りの3分の1が腸内細菌で、生きている細菌やその死骸、また3分の1が消化管で吸収されなかった食べかす、残り3分の1が古くなって腸から脱落した細胞などです。
便の色が黄褐色なのは、十二指腸に排出された胆汁の色素ビリルビンによるものです。このビリルビンは腸内の状態によって色が変わります。腸内が善玉菌優位で酸性なら黄色みを帯びた黄褐色に、悪玉菌が繁殖しやすい環境のアルカリ性なら黒っぽい色になります。
なぜ腸での水分吸収力が低下するのか
便はほとんどが水分でできているため、便の状態は水分量が大きく関係しています。硬さが理想的とされるバナナ状の「固形便」でも、その70~80%が水分です。
これが70%以下になると便は硬くなり、便秘を起こしやすくなります。逆に、便に含まれる水分量が80~90%になると、形のない泥のような「泥状便」となり、水分量が90%以上になると、水のような「水様便」となります。このように10~20%の水分量の変化でも、その状態が変化するのです。
大腸には、3つの働き(ぜん動運動、水分吸収、水分分泌)があります。これらの働きが何らかの原因で、通常より低下したり、あるいは必要以上に高まったりすることによって、下痢や便秘といった症状が起こるのです。では、それぞれの働きから、なぜ腸での水分が低下するのか見てみましょう。
1.ぜん動運動による水分吸収力の低下
ぜん動運動とは、腸が伸び縮みをくり返すことで、内容物を先に送っていく運動のことです。ぜん動運動が活発になり過ぎると、便が腸内にとどまる時間が短くなり、十分に水分が吸収されないまま排出されるため、下痢になります。
また、逆にぜん動運動が低下すると、腸内に便がとどまる時間が長くなるため、便の水分が吸収され過ぎてしまい、便が硬くなって便秘になりやすくなります。
ぜん動運動が活発になる理由
① 消化能力の低下
消化できていない食べ物が腸管を刺激すると、内容物が大腸内を早く通過するため、水分吸収が間に合わなくなります。それで水分の多い便となり、下痢になるようです。
体調がすぐれない時などは消化能力も低下していますので、下痢改善のために消化の良いものを食べましょう。
② 大腸反射
冷たいものが胃に入ると、大腸反射という現象が発生します。冷たい刺激が大腸に伝わることで、大腸のぜん動運動が活発化することをいいます。
ぜん動運動が活発すぎるために下痢になるのです。
下痢改善のためには、冷たいものを一気に飲まない、あるいは飲みすぎないようにを控えましょう。
③ 自律神経に左右される過敏性腸症候群などの病気
自律神経は感情や心の動きの影響を受けるため、腸にもその影響がおよびます。脳が不安やストレスを受けると、その信号が腸に伝わり腸の運動に影響を与え、早くなったり遅くなったりします。
ぜん動運動が早すぎると食べた物が早く腸を通り過ぎるため、水分の吸収が不十分となって下痢をします。
腸の検査をしてもこれといった異常がないのに慢性的な便通異常をきたす場合はストレスなどで自律神経の乱れが原因とされる過敏性腸症候群が考えられます。
過敏症腸症候群は、下痢型、便秘型、下痢と便秘を繰り返す混合型に分類され、下痢型は男性に多く、便秘型は女性に多い傾向があります。
下痢改善には自律神経のバランスを整えることが大事です。そのためにはストレスの解消を自分なりに工夫しましょう。
2.腸内の水分吸収力の低下
腸の中の水分が、何らかの原因で吸収されないと下痢になります。腸には毎日9Lもの水分が流れ込んでいます。内訳は、食事から2L、唾液から1L、胃液から2L、胆汁、膵液、腸液から4Lです。
この大量の水分を吸収する大きな役目を担っているのが、小腸と大腸。特に小腸では、9Lの水分のうち8Lが吸収されます。
残りの1Lが大腸に流れ込み、残りの大部分も大腸で吸収され、便中に残る水分は僅か0.15L。これがほど良い固さの便の水分量です。
腸で便の水分を吸収する働きが落ちると、便の水分を十分に吸収できず、下痢になります。
ではなぜ、水分の吸収が低下するのでしょうか。
① 腸内の浸透圧が高くなる
食べた物の浸透圧(水を引きつける力)が高いと、吸収されるべき水分が吸収されずに水分過剰となります。そうなると便の水分量が増え下痢になります。
例えば、牛乳を飲むと下痢をする人がいますが、これも乳糖が十分に分解されず、浸透圧の高い状態になるためです。牛乳に含まれる乳糖を分解する酵素は小腸から分泌されますが、大人になるとこの酵素がだんだん少なくなります。そのため、大人になると牛乳を飲むと下痢をする人が増えるのです。
ソルビトールやラクツロースなどの人工甘味料で便が緩くなるのも浸透圧が高いからです。便秘の際に用いるマグネシウム製剤も同じ作用です。食べ過ぎや飲み過ぎによる下痢の大部分も、消化不良による浸透圧性下痢になります。
下痢の改善のためには食生活によく注意を払い、どんなものを食べたら下痢になるのか自分でよく観察して下痢の原因を見つけましょう。
② 腸の炎症性腸疾患
ウイルス性腸炎や細菌性腸炎、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患は、腸に炎症を起こします。そうなると、腸から血液成分や細胞内の液体などが滲み出てきて、便の水分量が増加します。
更に炎症が起こると腸からの水分吸収もできなくなります。ダブルで下痢の原因となります。
腸の炎症も食事の乱れが原因となることが多くあります。下痢の改善には食事のバランスに気を付けましょう。
野菜中心の和食の食事を心がけましょう。
3.腸粘膜からの水分分泌が増える
細菌の毒素や消化管ホルモンの影響により腸管の分泌が多くなると下痢になります。胆のう摘出手術後に軟便や下痢になる人もいます。
これは、胆汁を蓄えておく胆のうがなくなることにより、胆汁が多く流れやすくなることに関係します。胆汁が多く腸に流れることにより、胆汁に含まれる胆汁酸が大腸粘膜からの水分泌を増加させ、便中の水分が多くなり、腸内の水分調節がうまくいかなくなります。
薬の副作用・糖尿病・大腸がんなどの病気
抗生物質や抗がん剤など薬の副作用で下痢になることがあります。
糖尿病を長く患うことで、自律神経の乱れをきたし、腸内の水分調節が正常にできなくなり、下痢や便秘になることがあります。また、大腸がんは便秘にもなりますが、下痢にもなります。
下痢の改善のためには腸内環境を強化しよう
腸内環境は食生活や生活環境で大きく変化していきます。腸内環境が良好となり、腸内活動が正常に行われるには腸内細菌のバランスがとても重要です。腸内細菌の善玉菌、悪玉菌、日和見菌の割合は2:1:7が理想的な腸内環境です。
腸内の水分調節がうまくいかなくなるのも、その他の様々な病気も基本的には腸内環境の悪化が原因です。
下痢改善の近道は腸内環境を整えることです。腸内細菌のバランスを整え、腸内環境を良好にするサプリメントがありますので上手に利用しましょう。