執筆・監修:箕浦雅子(薬剤師)|株式会社健将 代表取締役
「日本のカレーは平気なのに、インドカレーを食べるとお腹が痛くなる」
「インドカレーを食べたあと、すぐ下痢になる」
そんな経験はありませんか?
結論からいうと、インドカレーで下痢になる原因を「スパイスだけ」と決めつけることはできません。
考えられるのは、
- 唐辛子などの辛味成分
- 脂質の多さ
- 牛乳・ヨーグルト・生クリームなどの乳製品
- もともとの腸の敏感さ
- 食べる量
- 海外で食べた場合の感染症や旅行者下痢症
などです。
特に、
「食べてすぐお腹が痛くなる」
「日本のカレーなら平気なのにインドカレーだけダメ」
「バターチキンを食べるとお腹がゆるくなる」
という場合は、原因を一つずつ切り分けて考えることが大切です。
なお、この記事ではインドカレーを食べた後の下痢・腹痛を中心に解説します。
一般家庭のカレー・レトルトカレー・給食など、一般的な日本のカレーを食べて下痢になる場合については、別記事で詳しく解説します。
インドカレーを食べると、なぜ下痢になる?
インドカレーと一口にいっても、使われる材料はさまざまです。
たとえば、
- 唐辛子
- 油
- ギー
- バター
- 生クリーム
- 牛乳
- ヨーグルト
- 玉ねぎ
- にんにく
- 豆類
- 多種類のスパイス
などが使われます。
そのため、
「インドカレー=スパイス=下痢」
と単純に考えることはできません。
人によって反応する食品や成分が違うからです。
まず、考えられる原因を一つずつ整理してみましょう。
1.辛いインドカレーでは、唐辛子が腹痛のきっかけになることがある
まず考えたいのが、唐辛子に含まれるカプサイシンです。
ただし、
「カプサイシンを食べると誰でも下痢になる」
という意味ではありません。
2009年に発表された研究では、下痢型過敏性腸症候群(IBS-D)の患者20人と健康な人38人を対象として、唐辛子を含む食事を摂った後の消化器症状などが調べられました。[1]
その結果、IBS-Dの人では唐辛子を摂取した後に腹痛や腹部の灼熱感が強く出ました。
一方で、大腸の通過速度には明確な差が認められませんでした。[1]
この研究から考えられるのは、
辛いものが誰の腸でも一律に激しく動かすというより、もともと腸が敏感な人では、唐辛子による刺激を強く感じる可能性がある
ということです。
ただし、この研究は対象者数がそれほど多くないため、
「インドカレーで下痢になる原因はカプサイシンである」
と断定できるものではありません。
2.脂質の多いカレーで、お腹がゆるくなることもある
インドカレーは料理によって、
- 油
- バター
- ギー
- 生クリーム
などを多く使います。
NIDDK(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所)は、急性下痢の際に症状を悪化させる可能性がある食品として、脂肪の多い食品を挙げています。[2]
そのため、
「辛くないカレーは平気だけれど、濃厚なカレーを食べるとお腹がゆるくなる」
「バターチキンカレーの後だけ下痢になる」
という場合は、辛味だけでなく脂質の量も一つの確認ポイントになります。
ただし、
脂質が多い食品を食べれば必ず下痢になるわけではありません。
体調や食べる量、もともとの消化器の状態などによって反応は異なります。
3.バターチキンやラッシーなら「乳製品」も確認する
インドカレーを食べたときのお腹の不調で、見落としやすいのが乳製品です。
インド料理では、
- 牛乳
- ヨーグルト
- 生クリーム
- チーズ
- ラッシー
などが使われることがあります。
乳糖不耐症の人では、乳製品に含まれる乳糖(ラクトース)を十分に消化・吸収できず、
- 下痢
- お腹の張り
- ガス
- 腹痛
- 吐き気
- お腹がゴロゴロする
などの症状が起こることがあります。[3]
症状の強さは、摂取した乳糖の量などによっても変わります。[3]
そのため、
普通のインドカレーでは平気なのに、バターチキンやラッシーを一緒に取ったときだけお腹がゆるくなる
のであれば、スパイスだけでなく乳製品も確認してみましょう。
4.「インドカレーを食べてすぐ下痢」は、今食べたカレーがそのまま出たわけではない
「インドカレーを食べて10分ほどしたら、急にトイレに行きたくなった」
という人もいます。
すると、
「今食べたカレーがもう大腸まで届いたの?」
と思うかもしれません。
しかし通常、食べたものが数分で大腸まで移動して便として出てくるわけではありません。
食事によって胃が膨らむと、それをきっかけに大腸の動きが活発になることがあります。
これは胃結腸反射と呼ばれる生理的な反応です。
そのため、食後すぐ便意が来た場合は、
今食べたカレーそのものではなく、すでに大腸にあった内容物が押し出された
と考える方が自然です。
特に、
- 食事をするとすぐ便意が来る
- 朝食後にトイレへ行きやすい
- 緊張するとお腹が動く
- 辛いものを食べるとすぐ便意が来る
という人では、もともとの腸の反応性が関係している可能性もあります。
5.インドカレーだけで下痢になるなら「何が違うか」を比較する
原因を探すときに大切なのは、
「インドカレーが悪い」とひとまとめにしないことです。
たとえば、
日本の家庭のカレーは平気、インドカレーだけダメ
なら、
- 辛さ
- 脂質
- 乳製品
- 豆類
- 玉ねぎやにんにく
- 食べる量
などの違いを見ます。
バターチキンだけダメ
なら、
脂質や乳製品が関係していないか確認します。
激辛だけダメ
なら、
唐辛子への感受性を考えます。
特定のお店だけダメ
なら、
使われている材料、油の量、食べる量、保存状態など、別の要因も考えます。
こうして「何を食べたときに症状が出るのか」を比較することで、原因を絞りやすくなります。
6.海外で食べたインドカレーなら、食中毒・旅行者下痢症にも注意
海外旅行中や旅行後に下痢になった場合は、
「辛いものを食べたから」
だけで片づけないことも大切です。
CDCによると、旅行者下痢症は主に汚染された食品や水、飲料を介して起こります。[4]
また、南アジアでは旅行者下痢症の発症率が高く、CDCの2026年版Yellow Bookでは、インド旅行者について2週間の旅行中に60%を超える発症可能性が示されています。[5]
注意したいのは、
- 生もの
- 十分に加熱されていない食品
- 常温で長時間置かれた食品
- 未殺菌の乳製品
- 安全性が確認できない水や氷
などです。[6]
ですから、海外でインドカレーを食べたあとに、
- 急な水様便
- 発熱
- 嘔吐
- 強い腹痛
などが出た場合は、
スパイスへの反応だけでなく感染症も考える必要があります。
7.インドカレーで下痢になったときの対処法
一度インドカレーで下痢になったからといって、
今後ずっとインドカレーを食べてはいけないとは限りません。
次に試す場合は、原因を一つずつ切り分けてみましょう。
① 辛さを下げてみる
激辛を避け、辛さの弱いカレーで比較します。
② 食べる量を減らす
「何を食べたか」だけでなく、どのくらい食べたかも重要です。
③ バター・クリーム系を避けてみる
脂質や乳製品が関係しているか確認しやすくなります。
④ ラッシーを外して比較する
カレーは平気なのにラッシーを一緒に飲んだときだけ症状が出る場合は、乳糖が関係している可能性があります。
⑤ 食事記録をつける
NIDDKは、慢性的な下痢で原因となる食品を探す方法として、
- 食べたもの・飲んだもの
- 起きた症状
- 症状が出た時間
- どの食品で悪化したか
を記録する方法を紹介しています。[2]
「インドカレーを食べた」というだけではなく、
何が入っていたか、どのくらい食べたか、何分・何時間後に症状が出たか
まで記録すると、原因を見つけやすくなります。
8.「インドカレーを食べると毎回下痢」は、カレーだけの問題とは限らない
毎回同じように下痢や腹痛が起こるなら、
「胃腸が弱いから仕方ない」
で終わらせない方がよいでしょう。
下痢には、
- 感染症
- 食品不耐症
- 消化管の病気
- 薬剤
- 過敏性腸症候群
など、さまざまな原因があります。[7]
たとえば、
「インドカレー以外でも脂っこいものを食べると下痢になる」
「牛乳を飲んでもお腹を壊す」
「緊張するとすぐ下痢になる」
という場合は、インドカレーそのものではなく、別の要因が背景にある可能性もあります。
9.こんな症状がある場合は医療機関へ
食後に一度だけ軟便になった程度で、その後すぐ落ち着くのであれば経過をみられる場合もあります。
一方で、
- 血便
- 強い腹痛
- 高熱
- 繰り返す嘔吐
- 脱水が疑われる
- 下痢が長く続く
- 海外旅行後から症状が続いている
場合は、自己判断だけで済ませず医療機関へ相談してください。
特に旅行後の下痢についてCDCは、14日を超えて続くものを持続性の下痢として扱っています。[8]
まとめ|インドカレーの下痢は「スパイスだけ」が原因とは限らない
インドカレーを食べて下痢や腹痛が起きたからといって、
「スパイスが腸に悪い」
と決めつけることはできません。
考えられるのは、
- 唐辛子などの辛味
- 脂質
- 乳製品
- 食べる量
- もともとの腸の敏感さ
- 海外旅行中の感染症
などです。
特に、
「日本のカレーなら平気」
「バターチキンだけダメ」
「激辛だけダメ」
「海外で食べたときだけダメ」
という違いは、原因を考える大きなヒントになります。
まずは、
「何を」「どのくらい食べて」「どのくらい後に症状が出たか」
を整理してみてください。
参考文献・参考情報
[1] Gonlachanvit S, Mahayosnond A, Kullavanijaya P.
Effects of chili on postprandial gastrointestinal symptoms in diarrhoea predominant irritable bowel syndrome: evidence for capsaicin-sensitive visceral nociception hypersensitivity.
Neurogastroenterology & Motility. 2009;21(1):23-32.
DOI:10.1111/j.1365-2982.2008.01167.x
PMID:18647268
[2] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Eating, Diet, & Nutrition for Diarrhea.
[3] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Symptoms & Causes of Lactose Intolerance.
[4] Centers for Disease Control and Prevention(CDC).
Travelers’ Diarrhea. CDC Yellow Book 2026.
[5] Centers for Disease Control and Prevention(CDC).
India. CDC Yellow Book 2026.
[6] Centers for Disease Control and Prevention(CDC).
Food and Water Precautions for Travelers. CDC Yellow Book 2026.
[7] National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK).
Symptoms & Causes of Diarrhea.
[8] Centers for Disease Control and Prevention(CDC).
Post-Travel Diarrhea. CDC Yellow Book 2026.
執筆・監修
箕浦雅子(薬剤師)
株式会社健将 代表取締役。
薬剤師としての専門知識を基盤に、長年にわたり健康・食品分野に携わり、腸内環境や納豆菌をはじめとする健康情報の発信を行っています。
株式会社健将は健康食品の企画・開発・販売も行っています。本サイトでは、健康や身体に関する一般的な情報について、公的機関・学会・医学論文などを確認しながら、できる限り正確で分かりやすい情報提供に努めています。
利益相反(COI)について
執筆者は株式会社健将の代表取締役であり、同社は健康食品の企画・開発・販売を行っています。本記事は特定商品の販売を目的としたものではなく、上記の公的機関・医学論文等に基づく一般的な健康情報の提供を目的としています。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を目的とするものではありません。症状が続く場合や気になる症状がある場合は、医療機関へご相談ください。
