下痢の原因としてあがる食材に「油」があります。油物は消化不良を起こすイメージもありますが、もっと怖いのは酸化した油による害です。わたしたちは知らず知らずのうちに、日常生活でたくさんの油を摂取しています。
たとえば「ドーナツ」
近年では生ドーナツなるものがブームとなるくらい、ドーナツは大人気のお菓子となりました。このドーナツの脂と下痢の関係について考えてみましょう。
ドーナツで下痢になる理由
ドーナツは、小麦を主とした生地を油で揚げて作るお菓子ですが、この油が実はおなかを壊す原因になる可能性があります。
下痢の原因となる油の劣化
油の劣化は油が酸化することで起こります。「油の酸化」とは、光や熱、酸素と油が結合して起こす反応のことです。
酸化した油は過酸化脂質を生じます。油の脂肪酸に二重結合を有する不飽和脂肪酸と酸素の反応によって過酸化脂質を形成し、さらにその酸化分解により、二次生成物であるアルデヒド、ケトン、アルカン、アルケンなどが生成されます。
さらに反応が進むと重合体、エポキシド、低級脂肪酸となり劣化がどんどん進行していきます。
分解された物質同士が結合すると、分子量の大きな重合物と呼ばれる化合物になり、これらの物質が、油の色が悪くしたり、粘りや嫌なニオイのもととなったりします。
油が酸化すると良くない理由
油が酸化してくると油の色が悪くなり、粘りが出たりします。こうした酸化によって劣化した油を摂取することで、下痢になることがあります。また、下痢になる以外にも様々なデメリットがあります。
①料理の風味を損なう
天ぷらやフライなどの揚げ物料理は、カラリと軽やかに揚がっていてこそ美味しいものです。
しかし酸化した油は粘りが出るため、こってりと油っこくなりやすく、カラッと揚げるのが難しくなります。また、油の色や匂いも悪くなるため、料理の仕上がりに大きく影響します。
②食中毒を引き起こす原因に
揚げ物を食べた後、お腹が痛くなったり、胸焼けがしたりといった経験がある方もおられると思います。これは酸化した油が原因の場合がしばしばあります。
ひどいときは食中毒症状を起こすこともあります。
なお、油の酸化は揚げる油だけでなく、調理済みの揚げ物でも起こります。揚げ物は放置すればするほど、酸化がすすむのです。
そのため、油で揚げた即席麺、菓子類、惣菜などの商品は、流通する際に酸化の程度について法的な基準があるほどです。
家庭でも、揚げ油だけでなく、残った揚げ物は早めに食べるなどの注意が必要です。
③多量に摂取した場合は、健康を損ねる可能性も
酸化した油を多少摂取しても、体内には毒素の分解機能があるため、すぐに体に影響がある訳ではありません。しかし多量に摂取すれば、内臓への負担や健康を損ねるさまざまな病気の原因となる可能性もあります。
腸内での毒素分解機能が正常に行われるには腸内環境が良好であることが重要です。
酸化した油の食中毒例
①マウスの実験例
マウスの経口投与試験において、過酸化物が生体内の酵素を不活性化し、血球の破壊、肝臓、腎臓、肺の肥大化、各組織の細胞変性、壊死等を引き起こしたことが報告されています。
過酸化脂質自体は、腸管からの吸収がされにくいため、腸管内壁を傷つけることで下痢や腹痛を引き起こすのです。
②1964年の即席めんの例
劣化食用油脂による最も大きな食中毒事件は、1964年6月から8月にかけて発生した「即席めん」による食中毒があります。この事件では、大阪府、京都府等の関西地域、静岡県や長野県の広域において69名が下痢、吐き気、嘔吐、腹痛などの症状を発症しました。
原因は直射日光が当たるなどの、極めて好ましくない保管状況だったことが想像されます。
2009年仙台市衛生研究所報によると、即席めんの摂取によるとみられる吐き気、腹痛、下痢、発疹の症例の報告がありました。
この原因調査においては、酸価、過酸化物価による値には問題がないため原因が不明でしたが、酸価や過酸化物価が低値であっても二次生成物が多く生成している場合があるため、アルデヒド量を示すカルボニル価等も把握する必要があるとのことでした。
酸化した油の見分け方
このように、酸化した油は料理の味を損なうばかりか、身体に悪い影響を及ぼします。油が酸化しているかどうかはどのように見分ければいいのでしょうか?
①色が濃くなる
最初は透き通った色の油も、酸化が進むと色が濃くなってきます。色が黒っぽく、濃くなってきた油は、揚げた食材も黒くなってしまいやすく、仕上がりにも影響します。鍋の底が見えない程に黒くなった油はすぐに交換しましょう。
②嫌なニオイがしてくる
ごま油やオリーブオイルなどを除く多くの植物性の油は、新鮮なときは無味・無臭ですが、揚げ物や炒め物で使用することで風味が生まれます。
多少の油の風味はおいしさにつながりますが、油臭いと感じるほどのニオイは料理の仕上がりにも影響を与えます。嫌なニオイ(=変敗臭)は酸化が進んでいるととらえ、交換の目安としましょう。
③泡が出る
揚げ物をしたときに泡が立ち、消えない場合は酸化が進んでいます。熱した油に食材を入れると水分が出てくるため、パチパチと気泡が生じますが、酸化が進んでいるときに出る泡はこの泡とは違い、細かく泡立ち、鍋から消えません。
④粘りが出る
植物性の油はサラサラとしています。酸化によって油の分解が進むと、先述した通り、油はどろりと粘りが出てきます。保管していた油を鍋に移すとき、粘度がある場合は酸化が進んでいるので交換しましょう。
油の酸化を防ぐには?
できるだけ防ぎたい油の酸化。油が酸化する要因には、空気・光・熱があるとお伝えしました。これらに触れないようにすることで油が酸化しにくくなります。
①空気に触れないようにする
油を保管する際は、なるべく空気に触れさせないようにします。揚げ物をした後に保管する容器は、間口が狭く空気に触れにくいものに入れて蓋をしっかり閉めましょう。容器内の酸素とも反応するので、なるべく容器内に余白は作らず、口いっぱいまで入れられる容器が良いでしょう。
②光にあたらないようにする
油の酸化は太陽の光だけでなく、蛍光灯の光でも進みます。直射日光を避けることはもちろん、電気があたらない暗い場所に保管しましょう。
③熱を避ける
保管の際は涼しいところに置くようにしましょう。使い勝手の良さからコンロの横に置いているという方も多いのではないでしょうか? コンロ周りは特に温度が上がりやすい場所なので、おすすめしません。
なお、一度使った油を鍋の中に放置しておくのは、空気にあたる面積が広かったり、光を浴びやすかったりするので、とても油の酸化が進みやすい状況です。温度がある程度下がったら素早く濾(こ)して冷まし、保存容器に移しましょう。
油が酸化する期間
油の酸化の程度は、保存状態や使用状況により大きく変わります。油の状態をみて、色やニオイなどに問題が無ければ、2〜3回を目安に使うのが良いでしょう。
しかし揚げ物のように、鍋に油を注ぎ(空気・光に触れる)、高温で加熱される食材を調理するのは、油の酸化が進みやすくなる条件がそろった状況であるということです。
その上、揚げた食材から溶け出した成分によっても、油の劣化が進みます。使用後は適切に保存し、早めに使い切った方が安心でしょう。
酸化しにくい油はある?
油の組成の違いから、酸化しにくい油としてよく知られているものにオリーブオイルがあります。また、抗酸化作用をもつ成分を含む、ごま油や米糠油(こめぬかあぶら)も酸化しにくい油といわれています。
なお健康志向の高まりから近年話題の亜麻仁油やえごま油は、酸化しやすい油のため、加熱調理には向きません。
酸化した油に使い道はある?
酸化した油に特に使い道はありません。先ほど紹介したように、色やニオイが変わったり粘りが出たりと酸化してしまった油は、正しい方法で廃棄しましょう。
揚げ物に1回使った程度では廃棄するほどには劣化しないともいわれていますが、その後の保管方法や次に使うまでの期間の長さで、酸化が進んでしまうこともあります。
また、まだ使用していなくても、一度開封した油は空気に触れ徐々に酸化していきます。開封後の使い切り目安は商品のパッケージに書いてあることも多いので、よく確認し、保管方法に気をつけて早めに使いましょう。
このように即席めん類、油脂で処理した菓子、洋生菓子などの酸化は、食品の風味や栄養価値を損ねるだけでなく健康被害も引き起こします。油脂が過度に酸化した食品を摂取すると、吐き気や嘔吐、下痢などの中毒症状を引き起こす可能性があります。
賞味期限やお店の陳列状態、また家庭での保管場所に注意しましょう。出来るだけ古いものは避け、酸化していなくても油菓子(例えばドーナツ、ポテトチップス等)は頻繁に食べないように心がけたいものです。
油に負けない腸内環境
「元気の元は胃腸から」と昔から言われています。腸は私たちが食べた物を消化・吸収し、それを生かすために働いてくれるとても重要な臓器です。
ですから、少しくらい有害な物を食べても、腸内で処理して無毒化できます。それも腸内環境が整っていればこそ、です。
下痢を頻繁に起こす方、慢性的な下痢で悩んでいる方は、お腹をよくしたい!と悩まれていることでしょう。そのためには、腸内環境を健全に保たなければなりません。
腸内環境を良好に保ってくれる善玉菌たちは、下痢をすればするほど、便と共に体の外に流れて行ってしまいます。ですから、毎日補給してあげる必要があるのです。
善玉菌を補給するには、乳酸飲料、乳製品といった食べ物の他、サプリメントで集中的に補うのも効果的です。
人の腸内環境は千差万別、サプリメントに使われている菌も様々な種類があります。自分のおなかの状態に合う菌をみつけることから、腸活を始めてみましょう!